まずは、この楽譜を弾いてみたり、または動画をご覧ください。
赤で示した部分、なんだかちょっと外れた音に聴こえませんか?
ピンポイントで聴くとちょっと違和感がある音だけど、前後を含めて弾いてみると、なぜかしっくりくる。
これが「裏コード」というジャズアレンジ技です。
もちろん、松田聖子さんの原曲音源には、この音は登場しません。
私がジャズアレンジとして加えたものです。
今回は「ジャズの曲じゃないけど、ジャズっぽくアレンジして弾いてみたい」
そんなときに使えるアレンジ技「裏コード」について、説明します。
裏コードを理解して使えるように慣れば、どんな曲でも「ジャズっぽく」聴こえる音にアレンジできますので、ぜひ参考にしていただければ嬉しいです。
もくじ
まず、この「Circle of 5th」という表をご覧ください。
この「五度圏(サークル・オブ・フィフス)」は、全種類のキー(12個)を+5度ずつ順番に並べたものです。この世の真理を表した図です。私達は、この表の中で生きています。
さて、裏コードとは、この球体の裏側(反対側)にあるコードのことです。
■「C」の裏コードは「G♭」
■「E♭7」の裏コードは「A7」
つまり、冒頭の「松田聖子/Sweet Memories」の赤い部分は、「E♭7」の裏コードである「A7」を弾いているのです。
裏コードは「スパイス」効果を発揮します。
つまり裏コードを使うと、味に変化が生まれ、音楽に深みが増します。
この譜面の、それぞれ2小節目を弾き比べてみてください。
「普通」→とても自然な流れで、直球な響きです。
「ジャズ風」→裏コードという不思議な響きが加わり、変化球な印象です。
このように、裏コードは「スイカにかける塩」「ソルティドッグのフチについてる塩」「カレーに入れる隠し味のチョコレート」のようなイメージです。
つまり”一見合わなそうだけど、使ってみると味の深みが増す”という技です。
したがって、使いすぎは禁物。塩かけすぎてスイカがしょっぱくなってはいけません。
隠し味のスパイスとして、ここぞというときに使いましょう。
この世の音楽で、よくあるコードの流れがあります。
それは、「期待感のある音→落ち着く音」という流れです。
例えばG7というコードは、次のCに落ち着くことを期待させる音です。
「G7→C」と続けて弾くと、「期待して→期待通りに落ち着く」という結果になり、心地よい流れです。
専門的な言葉だと「ドミナント→トニック」と言います。
ジャズ奏者だと、「5(度)→1(度)」と言ったりします。
このパターンが出てきたら、「裏コード」の出番です。
上の表のように、「落ち着く音」の直前に、ドミナントコードの裏コードを入れてみましょう。
■G7→Cの場合は、G7→Db7→C
■D7→G7の場合は、D7→Ab7→G7
裏コードを弾いた瞬間、
え?これどうなるの?
と不安にさせながらも、次の「落ち着く音」で、
は〜よかった〜
と安心させます。
こんな感じで、裏コードは「落ち着く音」の直前に入れてみましょう。
例えば卒業写真を、裏コードを使ってジャズアレンジすると、こうなります。
裏コードって、めっちゃ不思議な音なのに、なぜしっくりくるのか。
それは、実は裏コードの半分は、表コードと同じ材料でできているからです。
G・B・D・F (=ソ・シ・レ・ファ)
Db・F・Ab・Cb (=レb・ファ・ラb・ドb)
この2つをよく見比べてください。
そう、共通している音がありますよね?
それは「F」と「B」です。
裏コードでは「Cb」と書いてありますが、要するにこれって「B」ですよね。
「F」と「B」が、共通で使われているのです。
半分だけ同じ材料を使うことで、全くの別世界な響きになることを避けられます。
つまり通常の「G7 → C」という自然な流れを断ち切らずに、
「G7→Db7→C」という形でCへ落ち着くことができます。
裏コードとは、全く関係ない別のコードではなく、表コードの材料を半分使って作られた、文脈に合ったハイブリットオシャレコードなのです。
スイカの甘さは残しつつ、塩をふって味わい深くする役割です。
これは、私がアレンジした演奏を楽譜化したものです。
「?」の部分はオリジナルラブさんの原曲には無いコードで、私がアレンジして加えた音です。
さて、「?」に入るのはどんな音でしょうか。
「?」に入るのは「D7」の裏コードです。
正解は、以下の動画をご覧ください^^
■ジャズっぽい音にするためのスパイスの一つ
■なぜ「裏」と呼ぶかというと、Circle Of 5th表のちょうど「裏側」にあたるから
■使い所は、落ち着く音の直前
■一見不思議な音だが、実は音楽の流れに即した音になっている
裏コードはジャズの技ですが、椎名林檎さんや藤井風さんなど、「色気のある系Jpop」にはよく使われている手法です。
ぜひ使いこなして「大人の響き」を作っていきましょう!